【広報紙特集インタビュー】くびにかけるくん自動組立機(導入企業×開発企業×ロボットSIer)

【広報紙特集インタビュー】くびにかけるくん自動組立機(導入企業×開発企業×ロボットSIer)

広報さがみはら令和5年11月1日号「ロボットのまち さがみはら」特集の作成にあたり、市内でウレタンフォームやスポンジ素材を使った建設資材や雑貨などを製造し、令和2年度に産業用ロボット導入補助金を活用した相模カラーフォーム工業の甲斐社長と、ロボットシステムを活用した製造装置を開発した永進テクノ株式会社の鈴木社長と株式会社シグマ工業の沼澤社長の3人にインタビューしました。

くびにかけるくん自動組立機

【概要】
2種類の製品の穴あけ、型抜き、入替などができる汎用装置

くびにかけるくん

マスクのゴムひもを耳にかけずにすることで、マスク着用時に耳が痛くならないようにしたアイデア商品

(平成27年 相模原市トライアル発注認定制度認定)


開発したロボットのすごいところ・工夫したところはどんなところですか?

柔らかい素材に対する機構の成立は
すごいことだと自負している。

(沼澤社長)「くびにかけるくん自動組立機」は「くびにかけるくん」の生産を目的に開発した装置ですが、1つの製品だけでなく、今後別の製品の製造にも転用可能な装置にしたところがすごいところの一つです。汎用性を持たせることは当たり前のことだけど、意外と難しいところでもあります。また、今回特に難しかったのは、対象の製品がスポンジ素材だったこと。スポンジ素材はその日の気温や湿度によって硬さや寸法にばらつきがでやすく苦労しました。

(鈴木社長)ロボットがよく使われている自動車産業では、金属部品の加工であったり、寸法の精度がある程度揃っているものが多いです。今回のようなスポンジ素材のものや、ダンボール、袋詰めされたものなど寸法に統一性のないものは、採算性の問題や難しさもあって、あまりチャレンジされていませんでした。でも今回、市の補助制度があったり、相模カラーフォーム工業さんとの関係性など、好条件が揃っていたこともあってチャレンジすることができました。

(沼澤社長)構想すること自体は比較的簡単にできて、実験用の治具なども作ってみましたが、スポンジ素材の扱いはなかなか思ったようにいかず、「こんなに難しいものなのか」と改めて感じました。協力関係にある技術者の方からも「こんなのやめた方がいいよ」なんて言われたりもしましたけど、我々技術者は経験することが学びで、技術力アップにもつながるし挑戦することが必須。難しい挑戦でしたが、日頃から親交のあるこの3社だから安心してチャレンジできました。さらに、相模カラーフォーム工業さんは社員たちの意識が高く、ロボットを導入しても「なんだこれ」とはならずに、社内のカイゼン活動にも必ず興味を持ってくれると思っていました。

3社共同開発について感想を教えてください

(沼澤社長)アイデアを出し合えたことが良かったです。構想段階でも、実験段階でも、鈴木社長も甲斐社長もジャストアイデアがすぐに出てくる。さらに日頃から本気・本音で話せるこの関係性が、「難しいものでもできるんじゃないか」って雰囲気を作り出せました。そのおかげで設計にもすぐ落とし込むことができました。

普段は競合同士かと思いますが、ハードルはなかったのでしょうか?

(鈴木社長)相模原には似たような事業をやってる企業はあれども、ベースとなる技術も少しずつ違っていたり、お互いが個々の企業の特性を理解しているから、周りから見たら競合同士が手を組んでいるように見えるかもしれませんが、必ずしも競合という訳ではありません。

相模原では、相模原商工会議所の部会活動が活発だったり、市の交流事業があったり、企業同士が交流できる機会が多くあるので、こういった関係を構築しやすいと思います。

また、ユーザーとなるお客様との関係も築きやすいため、今回のようなユーザーと一緒に考えて開発することもできたと考えています。特にロボットSIerは事業の特性上、ユーザーと物理的にも関係的にも近い距離感であることが大切だと思っています。

(沼澤社長)企業同士の親交が深いので、スケジュールがいっぱいで自分の会社が仕事を受けられない状況でも、市内の他のロボットSIerを紹介したり、一緒に開発したりしています。「相模原の仕事は全部、相模原のロボットSIerがやる」という感じで、地産地消みたいなことができたらいいなと思います。

ロボットを導入してみていかがでしたか?

圧倒的に効率が良くなったことやロボット導入の良さを、社員たち全員で実感することができた。

(甲斐社長)「くびにかけるくん」という製品自体は元々2015年から販売していましたが、コロナの影響もあり、テレビでも取り上げられるようにもなって、急激に生産量が増えました。でも生産工程の一部を外注していたところも稼働が止まってしまい、全員体制でこの製品をつくっていましたが、手間のかかる工程が多いので社員も苦労していました。でもそれがロボットになり、「作業に手もかからない」「時間もかからない」ようになって、圧倒的に効率が良くなったことを社員たちみんなで実感することができました。全員で共感できたことが社内にいい影響になって「他にも自動化できるところがあるんじゃないか」なんて意識が変わったのもすごくよかったです。

導入にあたっては、ロボットに関する知識不足があったり、資金面でのハードルがあったり、いくつか壁がありましたが、開発したお二人が話していたように、腹を割って話し合える関係があったからこそ、納得がいくまで話し合い、ロボット導入への決断ができたと思います。

ロボットについて知らないことばかりで、特に初めての導入で不安に思っていましたが、たくさん意見や議論を重ねていけたことが良かったです。

ユーザーもロボットSIerにとっても、ロボットシステムは、導入したあとのつくり込みの時間が大事。

(鈴木社長)ロボット導入で大切なのはユーザーとの対話で、失敗してしまうケースの中で多いのは、ユーザーの思っていることと、実際にできることのギャップが生まれてしまうこと。ユーザーとちゃんと意見を出し合える関係性をつくることがロボットSIerとしても大事なスキルだと思っています。

また、ロボットシステムは、ただロボットを買うだけではなくて、つくり上げていくものなので、ロボットを導入した後も、保守や改良などですぐに駆け付けられるような距離であることも大切です。ユーザーは毎日ロボットを使う中で、我々よりも導入したロボットに詳しくなっていき、「改良が必要だな」「カイゼンしたいな」という「気づき」が生まれますが、そうした「気づき」の対応がすぐできることで、ユーザーとしても妥協のない設備に仕上がっていくし、技術者としても、つくり込んでいくことで技術力が身につきます。

ユーザーとしても、ロボットの知識・理解が深まることで、次の自動化やロボット導入のハードルも下がっていくのではないかと思います。

ロボット関係やものづくりを通じてどんな相模原の未来を描いていきたいですか?

(沼澤社長)現在、相模原ロータリークラブの活動で、小中学生向けにドローンの体験教室などをやっていますが、子どもたちにロボットに触れてもらうことで、将来我々のようなロボットSIerやものづくりの仕事へ期待を持たせてあげられるようにしたい。私も子どものときにメカ・機械が大好きだったので、子どもたちにもきっかけをつくってあげられたらと思っています。

(鈴木社長)ロボットの使い方には概念がなく、この相模原には多くのロボット企業、ものづくり企業がいて、それぞれが違うことにチャレンジしていたりするので、刺激を受けながらこれまでにないものづくりにチャレンジしていきたい。

ものづくりの面白さを若い人にも伝えていきたい。

(甲斐社長)みんな子どものころに積み木やブロックで遊んだり、好きだったりすると思うんですけど、大人になってからもそうしたものづくりに触れることができるのが、この仕事のいいところだと思っています。直接消費者に製品を手に取ってもらって、時には厳しい意見もありますが、良い意見もたくさんいただいたり、自社製品がホームセンターに並んでいたりするのを見るとすごく嬉しくなります。「自分たちがつくったものが世の中にある」というのはモチベーションになるので、これからもそうした新しい商品をどんどん生み出していきたいし、若い人たちにもこうした経験をしてもらい、ものづくりの面白さを伝えていきたいです。

今後もロボット開発やものづくりをしていく中で様々な挑戦、チャレンジがあると思いますが、意気込みをお願いします。

どんなことにも前のめりでやるだけです!

(沼澤社長)今回は補助金を活用した事業として生産性が向上できるような取り組みを行いましたが、今度は私たちの取り組みが伝播するように、広報を通じて発信するようなことも前のめりにやっていきたいですね。

インタビューを見てくださっている皆さまも自動化などに興味を持って、前のめりで受け取ってくれたら嬉しいです!

市内経済に貢献、恩返しをしていきたい

(鈴木社長)当社はこの相模原で創業して、2024年5月に50周年を迎えます。この相模原で事業を続けていたことで、今の私たちがあると思っていますので、様々な人が相模原で働くことができたり、相模原でつくられたものが、国内や海外へ発信されていくことが良いことだと思っていますし、そうした環境を今後もつくっていくことで、市内産業が発展していくと考えていますので、今回のような自動化の取り組みもそうですが、当社の事業を継続的に発展していき、市内経済に貢献、恩返しをしていきたいです。

今回一緒に事業に取り組んだ仲間や先輩経営者たちの存在にも刺激を受けてきましたので、私たちもそうした環境を残していけるように頑張っていきたいです。

(甲斐社長)地域との関りを強めていきたいと思っています。工場見学の受け入れであったり、地域イベントへの参加であったり、地元の人たちを大切にできるようにしていきたいと考えています。

また、ものづくりの企業として、「くびにかけるくん」のような面白い商品を開発して、相模原から世の中に発信していきたいと思っています。乞うご期待ください!

インタビューにご協力いただきありがとうございました!

プロフィール

鈴木 道雄(すずき みちお)【右】

リーマン・ショックによる世界的金融危機で、会社が苦しい状況の中、工作機械の浮上油やスラッジを回収する装置を開発。会社再生を成功させるとともに、国等から表彰などを受ける。市内の協力企業とロボットSIerに特化した合弁会社を立ち上げるなど、ロボットビジネスにも積極的に参加。

【会社概要】
永進テクノ株式会社
代表取締役 鈴木 道雄
相模原市緑区下九沢 1630-2
ホームページ http://www.eishin.info/

沼澤 剛志(ぬまざわ つよし)【真ん中】

機械に触れることが好きで、プライベートでも趣味のバイクいじりを楽しむ。大手メーカー関連企業のエンジニアとして経験を積み、先代である父の立ち上げた㈱シグマ工業に入社。現在は社長となり、会社を引き継いだ。どんなことにも前向きな姿勢を貫く。

株式会社シグマ工業
代表取締役 沼澤 剛志
相模原市南区古淵1-34-6
ホームページ https://www.shiguma.jp/

甲斐 大輔(かい だいすけ)【左】

5代に亘る老舗企業の社長。ロボット導入による社内環境のカイゼン活動や発泡ウレタンなどのスポンジ素材を扱ってきた技術とノウハウを生かしたアイデア製品の開発など、新しいことにも積極的に取り組んでいる。

相模カラーフォーム工業株式会社
代表取締役社長 甲斐 大輔
相模原市中央区上溝292−1
ホームページ https://s-foam.com/

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