【インタビュー】佐藤 知正 東京大学名誉教授

2022年2月8日
【インタビュー】佐藤 知正 東京大学名誉教授

 

「ものづくり」と「サービス」の融合
~「ものサービス」の提供で地域産業のさらなる発展を~

 東京大学大学院工学系研究科産業機械工学博士課程修了、東京大学先端科学技術研究センター先端システム教授や同大学工学系研究科機械情報工学専攻教授などを歴任。日本ロボット学会会長を務めるなど、長年にわたりロボット研究やロボットの社会実装活動の第一人者としてご活躍されている佐藤 知正名誉教授にお話しを伺いました。

○ 相模原のものづくりの「強み」はどのようなところだとお考えですか?

 内陸工業都市として育まれた技術発展力にあると思います。相模原は、戦後、東京に近い利点を生かしながら、自動車・電機・機械・金属など、多種多様な中小企業が集積し、産業クラスターが形成されてきました。

 それら企業には企業間のネットワークがあり、さらに、ロボットビジネス協議会における交流など、企業同士が刺激しあい、技術を成長させていく力が強みだと思います。ポテンシャルが高く、今後さらに伸びる余地が大きいと思います。

相模原のものづくりが、さらに発展するためにはどのようなことが必要ですか?

 地域産業のロボット化(RX)とデジタル化(DX)をさらに進めることだと思います。

 そのために、ロボットSIerは、現実世界、いわゆるフィジカル世界だけにとどまらないことです。最新のデジタル技術では、フィジカル世界の様々な事象をサイバー世界(仮想空間)で忠実に再現できるようになりました。ロボットの世界でも同様です。これまで、フィジカル世界でしか実現できなかったプロセス、例えば製品の試作や製造工程の見直し、部品の劣化なども、サイバー世界で再現できるようになります。

 このように、フィジカル世界で起きていることを、まるで双子であるかのようにサイバー世界で再現する技術のことを「デジタルツイン」といいます。このデジタルツインを使えば、設計、生産、修繕等のシミュレーションをサイバー世界で行えます。このようにして、サイバー世界で完成させた製品やシステムがあれば、フィジカル世界での実現が、短期間、かつ、ローコストで可能になります。

 市内のロボットSIerがデジタルツインを積極的に活用していくことで、地域産業のRXとDXが進み、「ものづくり」と「サービス」が融合した「ものサービス」の提供が実現可能となります。

 「ものサービス」とは、製品(もの)をサービスとして一定期間提供し続けることです。単に製品をパッケージとして販売するのではなく、その製品を一定期間利用することができる権利に対し料金を請求するサブスクリプション型のサービスをイメージするとよいと思います。

 こうしたサービスを提供することで、販売元は一定期間、利用状況、データの収集・解析が可能となり、そのデータをもとに、サイバー世界でテストや改善を積み重ね、故障の回避や、新たな製品開発にもつなげることができます。

 市内企業がRXとDXを進めることで、新たなサプライチェーンが生まれ、地域「ものづくり」が大きく発展していくことになるでしょう。

※RX ロボットトランスフォーメーション

※DX デジタルトランスフォーメーション

※フィジカル世界 現実世界

※サイバー世界 仮想空間

※ロボットSIer
ロボットシステムインテグレータ。ロボットを使用した機械システムの導入提案や設計、組立などを行う事業者

※デジタルツイン(DigitalTwin)
現実世界と対になる双子(ツイン)をデジタル空間上に構築し、「モノ」から収集したデータを、デジタル上で活用する技術で、モニタリングやシミュレーションを可能にする仕組み

市にはどのようなことを望みますか?

 新たな産業を創出するためには、「ヒト」「モノ」「カネ」「知的財産」など多岐にわたる資源が必要となることから、RXとDXの推進、スタートアップやアクセラレーターの育成、金融支援、人材育成といった公的機関による支援が必要になります。

 特に、「技術づくり」、「社会づくり」、「人づくり」の中でも公的機関にしかできない支援が重要です。具体的には、実装や試行といった「実運用先行活動」、表彰や認定といった「与信」、STEAM教育などによる科学技術分野の人材育成です。こうした「技術」「社会」「人」への支援がないと、新たな産業の創出は難しいと思います。

 相模原市のほか、国や県、産業支援機関等が、それぞれの役割により様々な支援策を講じていますが、市は、それらの情報をとりまとめ、ものづくり企業支援サイトでしっかりと周知・啓発し、多くの市内企業が上手に活用できるようにしていただきたいです。

※STEAM教育
STEM(Science、Technology、Engineering、Mathematics)に、芸術、文化等のA(Art)を加え、各教科を統合的に学び社会での問題発見・解決に生かしていくための教育概念(手法)

最後にメッセージをお願いします。

 これからは、顧客ニーズが多様化し、さらに多品種少量生産の時代になりますが、デジタルツインを採用して、コスト削減、リードタイム縮減、リスク軽減等を図り、ユーザーとメーカーの両方に優しい「ものサービス」を提供していただきたいと思います。

 また、技術は、これまでの急激な成長期から成熟時代に移行し、異なる業種・業態との組み合わせにより価値が高くなります。そのため、多くの人の経験やアイデアが必要で、人材育成が大切になってきます。

 従来のように、大学・高専等で理論を学び、社会人として現場に出てから実践を学ぶのではなく、学校では、理論と実践を教育過程として学び、会社では、実践を踏まえながら理論も、常に、学び続けるようにするのがよいかと思います。そのため、企業には、大学・高専等に協力していただきたいと思いますし、企業内で働きながら学び続ける、学びと結び付いた働き方の改革を行うことが望まれます。

 また、企業には、学び続ける力を持った人材育成に加え、働きがいのある環境を整えながら企業文化を醸成することが求められます。そして、その上に、はじめてDXが成り立ち、新たな「ものサービス」を提供できるようになります。

 国には、未来に向けて日本式ものづくりの現場である「安全安心社会」と「ものづくり」とを一緒に、タイ、インド、アフリカ方面などに、戦略的に輸出していくことが必要になると思っています。そして、市内企業の皆様にその先例となるように進めていただけることを願っています。

 


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